2007
第13回国際救助犬世界大会
 (6.25-7.1)    
      随想 「世界選手権に参加して」 オーストリア アイゼンシュタッド

 国際救助犬連盟(IRO)主催第13回世界選手権大会は、6月28日から4日間、オーストリアの古都アイゼン シュタッドで開催された。世界19カ国から130頭の救助犬が参加し、日本からは「エロス」(村瀬英博) 「ランディ」(村山健太)「安芸(あき)」(山田道雄)のRDTAチーム3頭と、A.W.D.S.Aチーム1頭の合計4頭が出場した。

 
 我々出場選手と犬たちは早めにオーストリアに入り、ウィーン消防局のお世話で、プラター公園内にある 素晴らしい訓練所で約1週間合宿訓練を行うことが出来た。24日からは、後発の島津通訳以下4名の応援団と 合流し、毎日レンタカーでウィーンからアイゼンシュタッドまで約一時間の行程を往復した。ウィーンより はやや涼しいものの、連日30度を越す完璧な夏の気候である。アイゼンシュタッドは、オーストリアのほぼ 北東部に位置し、ゆるやかな大平原にブドウ畑が続くこの地は、古くからワインの産地として名高い。 この街の郊外、ひまわりの畑に囲まれたサッカー・スタジアムが主会場になった。



 大会期間中、犬舎用リアカーを牽引したり、大型のバンに何頭もの犬を収容したりした車が集まって来て、 この典型的な中世ヨーロッパの風情を持つ小さな街を賑わした。大会開始前日の夕刻には、出動服や ユニフォーム姿の参加者が、犬を連れて開会式会場まで目抜き通りを行進した。沿道の市民や観光客が盛んに 手を振り、カメラを構えて、異様な外国人と犬の集団を温かく迎えてくれる。

 市の中心部、エスタハージー城前の広場で開会式が行われ、州知事、オーストリア陸軍将官等の歓迎の挨拶や 祝辞があった。この城はこの地域がハプスブルグ家からハンガリーのエスタハージー公の手の渡った十七世紀 後半に建設されたもの。この夜、抽選会が城内の「ハイドンの間」で行われた。同公に宮廷音楽士として仕え たハイドンにちなんで造られたハイドンの間は、天上画が見事で、当時は毎晩のように演奏会が開かれたそう である。
抽選の結果、安芸は一日目「熟練」、二日目「がれき捜索」、四日目(最終日)「服従」と決まった。

 翌日からの競技で、安芸と私は普段の練習の成果を十分に発揮できなかった。否、実力を発揮できなかった というよりは、日頃の犬と飼主の関係が露呈してしまったと言うべきか。しかし、唯一「がれき捜索」では、 仮想被災者全員を発見し、種目合格することが出来た。
 
「がれき捜索」試験の会場は、車で三十分ぐらい 走った所の広大なオーストリア陸軍災害救難演習場にある、本格的な常設訓練場の一つ。日本チームの参加犬 にとっては勿論初めての場所であるが、幸運だったのは審査員が日本の試験で顔馴染みのドイツ人F氏であった こと。そのF審査員は、申告時なかなか停座をしない安芸を見て、「相変わらずですね」と言ってにやりとした。 がれき捜索の要領は、捜索現場を足場の良い順にA,B,Cの三つのゾーンに分け、風下からA,B,Cの順に区域捜索 を行うことにした。

 まずAゾーンから犬を入れたが、スタート地点のコンクリート壁の傾斜が急でこれを越える のに難航した。まもなくして安芸は尻尾を振り始め、何度も半壁をよじ登って中を覘こうとするが、なかなか 吠えない。約八分経過後やっと咆哮告知を行い、一人目を発見した。一旦最初の位置まで戻し、Bゾーンに投入 したら今度は二、三分後に吠え出した。奥の区画の地上レベルで二人目を発見。Cゾーンはいくつもの地下室に 厚いコンクリート壁が崩落した所で足場は最悪である。安芸はしばらく手前の区画に固執していたが顕著な 反応がないので、奥の方を指示したところ地下室に入り、姿が見えなくなった。しばらく我慢をしていたら、 かすかに吠える声が聞こえた。審査員に申告し現場に行くと、一番奥の地下室のかなり急な斜面を降りた所で 安芸が盛んに吠えている。日本語で何回か声を掛けると、しばらくして被災者からの応答があった。 規定の三十分に対し、全員発見までの所要時間は約二十分。



 「服従」「熟練」の各科目は、ウィーンの強化合宿では問題なくクリヤー出来ていたが、結果は不合格と なった。今回の世界大会での諸々の体験を踏まえて、帰国後その原因を分析したが、ほぼ解明できたと思う。 すなわち、鍵は技術面ではなく精神的なもので、究極的には安芸と飼主(指導手)の関係にある。要するに、 日常の生活から人と犬が一体となった信頼関係が不十分であった。今回日本チームで唯一総合合格した 村山訓練士とランディ号の合宿中の関係を見て、このことを実感した。確かに安芸は、「捜索」では楽しそう で一体感があったが、「服従」「熟練」では、自らやるというよりはやらされているという態度で、しぶしぶ あるいは時に拒否反応を示した。


   村山&ランディペアは、入賞そして世界ランキング17位!ランキング入りは日本で2ペア目です。



 しかし、今回安芸の捜索能力が世界レベルでも通用することを確認できたことは最大の成果である。 参加選手の中にはトルコやイラン等の大地震に出動した者が結構居り、スイスの選手はいずれも陸軍の軍人 であった。また、今回の大会を支援したアーストリア陸軍の部隊は、災害救援を任務とする専任部隊で、 国際的に緊急展開できる能力を備えているとのこと。出動する際は、民間の救助犬チームを部隊の一部として 編入する体制になっており、今後国内救助犬の訓練要領や出動体制を検討する上で参考になると思う。

 帰国してから約一ヶ月、安芸はしばらく訓練を中止し、飼主と新たな関係を築きつつ穏やかな日々を過ごして いたが、ある日突然胃捻転になり、一時は生命も危ぶまれる状態になった。現在は、二度の手術から生還し 24時間冷房完備の居間でおとなしく療養生活を送っている。毎日寝たり起きたり単調な生活で、何を考えて いるのか飼主には良く分からない。
いずれにせよ、ひまわりの畑に囲まれて過ごしたアイゼンシュタッドの短い夏は、安芸の一生において最も 印象的で輝いていたことには間違いない。

                                                  【報告:山田 道雄&安芸】


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