『 救助犬世界大会参戦記 』

● ドイツでの5日間

 2005年6月21日、フランスで行われる救助犬の世界大会に出場するためにドイツ・フランクフルト 空港に愛犬「マユ」と共に降り立ちました。 私にとって2年ぶりのヨーロッパであり、初めてのドイツと言う事もあり今までの想いとは少し 違っていました。そして、今回は大会出場・終了・帰国までの15日間全てをキャンピングカーで 過ごして見ようという初めての試みも有った為、私の心は子供のように大きな期待で沸き立って いました。

 ヨーロッパでは世界大会に限らず救助犬の試験を行う場合、多くの出場者が実際の出動を前提に 大会開催中キャンプを張って、その期間を自活訓練に見立て過ごすチームが多いのです。以前から、 私たちもこのキャンプ生活にチャレンジしたいと思って居た所、今回の開催地である南フランスの グランモットという街が典型的なリゾート地のため、宿泊施設の料金が高額で、それならばと思い 切ってこの計画を立てたという訳です。  幸いヨーロッパはトレーラーを引いて各国を廻る文化が確立されていて、キャンピングカーの受け入れ施設やレンタルの条件も大変充実している為、希望する内容で思った通りに行う事が出来ました。 まさに15日間夢のキャンプでした。

 そして、そんな私たちをこころよく受け入れてくれ協力してくれたのがドイツBRHの皆さんでした。 BRHとは、ドイツ全域で活動をおこなうボランティア組織の事で、その中の救助犬チームがまた各 地域で組織されていて活動を行っているのです。今回は、フランクフルト近郊を中心に活動をする チームが私たちの面倒を見てくれました。まずは空港まで出迎えに来てくれたBRH会長の「ハラー さん」! レンタルキャンピングカー店やオートキャンプ場まで案内をしてくれ、ドイツでの5日間全てのスケ ジュールを立て、いろいろな練習場を提供してくれました。 瓦礫会場にしても広域会場にしても、常に率先して被災者役をかってでて練習に協力をしてくれる のもこの会長「ハラーさん」でした。素晴らしい練習のヒントも沢山くれ、私達一同感謝と感激で お礼の言葉も無いほどでした。
 そして、2人目の方が地域チームの代表的な立場でとてもドイツ人としての誇りを持った、しかしな がら楽しい「ライナーさん」。彼は大変よく喋る人で、ドイツの事や日本の事、犬の事や訓練の事と とどまる事がないように話をしてくれました。ジャーマンシェパードをこよなく愛し、「シュッツ フントクラブ」にも所属していて、「ドイツシェパード犬協会(SV)」が救助犬活動に参加して来た 事を心から喜んでいる1人です。ルフトハンザ航空に顔がきくので大変ありがたい方です。
 次の人は「JJ」。もちろんあだ名ですが、とても優しく、ドイツ人としては小柄な男性ですが、我々 の練習の際、いつも被災者として隠れてくれ犬にも人にもとても優しい人です。ドイツ滞在中に救助 犬活動の一環として、地域の幼稚園に出向いて行き、子供たちに訓練を見せるお手伝いをさせて頂い た時も、この「JJ」が子供の目線になって優しく犬についての事や救助犬の役割などをわかりやすく 話していました。印象的だったのは帰国の際、最後まで私たちの姿が見えなくなるまで、ゲートのと ころで手を振ってくれていました。
 そして、次は女性メンバーの「ノイ」さんです。タイ国籍を持つ小柄なとてもチャーミングな人でし た。彼女は我々の生活にかかわるショッピングセンターやマーケットに案内をしてくれ、安い物や得 な物を教えてくれるので経済的にもとても助かりました。 他にも「ハラーさん」の奥様や「ノイさん」の旦那さん、別のチームの人達、色々な人達が私たちの ために力を貸してくれたのです。ホテルに宿泊したのでは知る事の出来なかった人のつながりやその 国の生活ぶりなど貴重な体験をすることが出来ました。

 ヨーロッパといっても、行く先々の国によって習慣や考え方が少しずつ異なるのはあたりまえの 事ですが、日本で感じているその国のイメージも、実際にふれて見ると大きく違って居る事が多い のが私の印象です。 犬の先進国ドイツの愛犬家も、日本と同じように多種多彩で「シュッツフントの国」というイメージ は、今回の経験で大分薄くなりました。 散歩中、私たちの犬に向かって吠え立てる小型犬(マルチーズのような犬)もいましたし、家族と 水遊びを楽しんでいた犬が、水の中から突然私達に向かって咬みつかんばかりの勢いでとんで来たり するシーンにも出会いました。この辺は日本と同じだなと思いましたが、その後の対処の仕方がやは り違いました。
 私達の犬は、どんな時も何事も無かったように対応する事が出来た為、それを見極めた相手の人は 自分の犬をしっかりと呼び寄せ、そこで「今のは悪い事」とわかるように叱るのです。時には体罰も 与えていました。レストランで食事をしている男性が足元にいるまだ教育不十分な自分の犬に対し 「フセをしてなさい」と何度もたしなめながら食事をしている姿にも遭遇しましたが、周りの人達は 犬の教育に対して理解ある目で見守っていました。 社会が犬を受け入れてくれる為の努力を飼い主は怠らないのです。こんな経験もキャンプ生活ならで はの事と嬉しく感じました。

 そんな現地の皆さんが、日頃練習に使っている場所に案内してくれたのが、二日目の午前中です。 まずは広域捜索の練習場で、高い樹木と密生した藪が広がる条件の厳しいしかしながらよく管理され た森を使っての練習です。ここは猟犬の訓練にも使うらしく、中央部分に人が見渡す事の出来る高い やぐらのようなものが設置されていました。
 ドイツの救助犬は、ほとんどが瓦礫でも、広域でも1頭の犬で色々な捜索が出来るように練習 していました。それがそれぞれの作業に良い影響を与え、犬が喜びと自信、そして捜索力を掴んで行 くのだと思いました。色々な方法と理論を聞かせてもらい、実際に隠れる役もやらせてもらった中で 意味を確認することができました。

「基本はシンプルでわかり易いことだと思います。」

 指導手とヘルパーの動きの部分も、大変勉強になった部分のひとつで、自分の練習に取り入れて行こ うと思います。 犬に対し強引に負荷を与えるといった事はなく、基本練習で積み上げた自信が困難な捜索現場で力を 発揮するのだと再確認しました。

 北ヨーロッパの夏の一日は長く、太陽は午後10時ぐらいにならないと沈みません。そこで午前の練 習を終わりにして瓦礫捜索訓練は夕方から集まって行う事になりました。 いったんキャンプ場にもどり近所のレストランに行き、皆で一緒に食事をする事になりました。私の 愛犬「マユ」も勿論一緒です。日向は気温30度を越す暑さなのですが、湿気が少ないため大型のパラ ソルの下でも清々しい風が通り、足元の芝生で気持ちよさそうに寝る愛犬を見ながら、冷えたドイツ ビールを飲み、昼食を楽しみました。

 夕方、案内して頂いた瓦礫捜索の練習場は旧アメリカ軍の飛行場跡で、広大な敷地の中に兵舎跡や 格納庫跡と思われる建物が数箇所有り、いくつかのチームが同時に練習しても影響が無いほどです。 ここでもやはり会長の「ハラーさん」が先頭になり、私達の犬のヘルパーをかってでてくれ、私の犬 は広域犬として競技に出場するから瓦礫の練習はしなくとも良いと思っていると、その犬に合わせた 練習方法を考え「こうやれば良いだろう」とアドバイスをしてくれました。 チームメイト大島君の犬「アタリ」などは不安な部分を発見され、徹底的にその部分を改善するため プランをたて、何度でも繰り返して練習を行い、その度「ハラーさん」は隠れてくれ、犬の表情表現 を確認して「これなら良いだろう」と言って練習を終わるのです。 BRHの皆さんのそれぞれが目的に対するプランを持って、一日に何度か練習を行っていました。どの 犬も大変捜索能力のある犬で、暑さをものともせず、持続して作業を行う体力も、日頃の管理の良さ を感じる事ができました。

 救助犬も、他のスポーツドックも、日々の生活の中に良い管理や社会馴致訓練があってこそ良い犬 を作ることが出来るのだと思いました。しかし、私も含めて日本人は両極端なので求めて過ぎてしま う傾向があります。生活の中では、程々(いい加減)が良いと思います。犬の能力は計り知れないと は言え、完璧なんて有り得ません。よい芽を摘んでしまうことになり自信喪失にもつながります。 高いレベルを求め過ぎても、実際の作業の中では大きな差は有りません。正解を出せないとき辛い思 いをするのは犬です。犬の能力を信じて自分の考えと言葉、そして行動に責任を持ってゆけば「ハラ ーさん」のように良いアドバイザーとして皆から支持されるのだと思います。

ドイツでの練習第1日目は、この後イタリアンレストランで多いに盛り上がり美酒に酔って幸せな気分 で終わったのです。


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